ルースとごはん
アタシたちは眺めの良い2階の窓際の席に案内された。
ルース
「海鮮を食べながら海が一望できるなんて、いいですね」
ルディ
「さすが、浅瀬の階の観光地ってやつだな!」
ルースは小盛りの刺身定食。
アタシはいくらの乗った海鮮丼を頼んだ。
食事はすぐに出てきた。
潮風の香りのする料理。
ルディ
「いっただきまーす!」
ルース
「いただきます」
一口食べれば、新鮮な味が広がる。
ルース
「美味しいですか?」
ルディ
「美味いに決まってるだろー。ルースのは?」
ルース
「とても美味しいです。でも、そんなに食べられないのが残念ですね」
ルディ
「え?」
見れば、ルースは半分ほど、刺身も白飯も残していた。
ルースは申し訳なさそうに言う。
ルース
「すみませんが、ルディ。まだ食べられますか?」
ルディ
「食べられるけど…食っていいのか?」
ルース
「小盛りにしてもらったのに残すのは、お店の人に悪いので。お願いできますか?」
普段、冷血で鬼畜なルースでも、お店の人に悪いとか、そういうまともなこと考えるんだな…
ルディ
「いいよ。食べる!」
ルース
「ありがとうございます」
ルディ
「!」
ルース
「? どうしました?」
ルディ
「ルースの口から、ありがとう、なんて言葉、出るんだな」
ルース
「人をなんだと思っているんですか」
ジトっとアタシを見るルース。
あ。
そういえば。
アタシは思い出して言う。
ルディ
「あのさ」
ルース
「なんです?」
ルディ
「さっき、ありがとう。助けてくれて」
ルース
「あぁ…あれはとっさに動いてしまっただけです」
ルディ
「ルースってさ、やる時はやる男だよな」
ルース
「人を、普段何もしない人みたいに言わないでください」
ルディ
「でもさ、正直、助けてくれた時のルースは、カッコよかったぞ? 相手がアタシで良かったな! よその女だったら、きっと今頃、惚れられてるぞ!」
言うと、ルースは鼻で笑う。
ルース
「本当に、それなら良かったですよ。相手がルディだから、恋愛感情を向けられなくて済む。こんな安心感は無いですね」
ルディ
「…前から思ってたんだけどさ、ルースって、なんでそんなに恋愛が嫌いなんだ?」
ルース
「言ってませんでしたっけ? 僕は無性愛者なんですよ」
ルディ
「無性愛者?」
ルース
「誰にも愛情を向けられない。誰のことも好きじゃない…誰のことも、愛せない。だから恋愛が嫌い…」
ルースの声は沈んでいく。

ルース
「僕は、人を愛せないんです。そういう、人間なんです」
ルースは、辛そうだった。
なんだか…
アタシまで、辛くなる。
ルディ
「あー、ごめん。なんか、ルース、辛そう…」
ルース
「そうですね。この話はやめましょう。それよりも、僕の分も食べてください」
アタシはルースの残した分の飯も食べた。
勘定を済ませて、アタシたちは外に出る。
ルディ
「いや〜、おいしかった〜! 次、どこいく?」
ルース
「少し歩きましょう。この辺りは街並みそのものが文化遺産だと聞いています」
アタシたちは街を歩いた。
特に会話も無く。
ふいに、通りすがりに声が聞こえた。
「可愛いカップルね」
振り返ると、若いお姉さんたちが楽しそうにこっちを見ていた。
ルースの大きな溜息が聞こえた。
ルース
「どうして、男女が並んでるだけで、カップルだと言われなければいけないのか…」
アタシはげんなりするルースに言った。
A-a、もういっそ、この休暇中はカップルってことにするか?
A-b、恋愛だけが男女の関係じゃないよな