A-a 「カップルってことにするか?」
ルディ
「もういっそ、この休暇中はカップルってことにするか?」
ルースは鋭い目とドスの効いた声で言う。
ルース
「何言ってるんですか?」
ルディ
「あ、いや、冗談なんだけどさ…! その…建前上カップルってことにしちゃえばさ、いちいち勘違いされても、気にしなくてすむかなぁ〜って思って!」
ルース
「はあ。建前上、ですか…」
少し考えて、ルースは言った。
ルース
「それはアリかもしれませんね」
ルディ
「え!?」
ルース
「カモフラージュで、好きでもない相手との熱愛報道をわざとさせる著名人だっていますからね。今だけ、ルディとはカップルであると言ってしまった方が、楽かもしれません」
ルディ
「ま、まさか、採用されるとは…」
ルース
「本当に。恋愛嫌いの僕が、手段としてルディとカップルを装うなんて、皮肉というかなんというか」
ルースは薄く笑う。
ルース
「しかし、カップルというのは、何をするものなんでしょうね」
ルディ
「えーっと…手を繋いだりするんじゃないか?」
ルース
「手なんて繋ぎたくないです。気持ち悪い」
ルディ
「そ、そうか…まぁ、別に、無理してカップルらしいことしなくても、アタシたちはそれっぽく見えるからいいんじゃないか?」
ルース
「それもそうですね」
しばらく歩いていると、目の前に貸ボート屋が見えた。
店先に立っていた店主が声をかける。
店主
「そこのお若いカップルさん。穏やかな海でひと時を過ごしてみないかい?」
ルース
「どうします、ルディ? 暇潰しに乗ってみます?」
店主
「ウチのボートはガラスでできてるからね。透明な海の底を見ながら過ごす時間は最高だよ?」
ルディ
「ガラスのボートかぁ! 乗ってみたい!」
アタシたちはボートに乗ることにした。
ボートはルースが漕いでくれた。
ルディ
「てっきり、アタシが漕がされるもんかと思った」
ルース
「今からでも交代してくれてもいいですよ?」
ルディ
「いや! ルース、漕いでくれ!」
ルース
「はいはい。それにしても、綺麗ですね、海」
ルディ
「そうだな!」
ボートの底は綺麗なエメラルドグリーンに染まっていた。
鮮やかな小魚とサンゴ礁が見える。
ルディ
「あ! 見ろよ! あそこの2匹の魚! 一緒に泳いでる! 仲良くていいな! カップルかな?」
ルース
「さあ? 友達かもしれませんよ。それか、今の僕らと同じ、建前上のカップルかもしれない」
ルディ
「魚だぞ? 建前上とか無いだろ」
ルース
「まぁ、そうですね」
ルディ
「あれ?」
2匹の小魚を観察していたら、なんとその魚はお互いの口と口を合わせていた。
ルディ
「!!! ルース!! チューだ!! 魚がチューしてる!!」
ルース
「おや、本当ですね。変わった習性だ」
ルディ
「これは恋人同士、確定だな! 愛し合ってて、仲睦まじくていいなぁ!」
不意に、ルースは黙った。
ルディ
「ルース?」
ルースは口を開く。
ルース
「…ルディ。聞きたいことがあるのですが」
ルディ
「なんだ?」
ルース
「ルディは、愛は人を救うと思いますか?」
ルディ
「はい???」
間抜けな返しに、ルースは呆れる。
ルース
「いえ。ルディに聞いた僕が間違いでした。忘れてください」
ルディ
「いやいやいや! めっちゃ気になるだろ!! えーっと、愛は人を救うかだろ? そりゃ救うだろ! 愛されて嬉しくないことないしな!」
ルース
「そうですよね。その理屈だと、僕は誰のことも救えない。誰のことも、愛せないから」
ルディ
「……」
ルースは辛そうだった。
ルース
「魚でさえ、相手を愛することができるのに…僕は…」
ルディ
「そんなこと言うなよ」
ルース
「ルディ…」
ルディ
「ルースは、なんか…愛するっていうのを、一方向からしか見えてないというか…愛って、そうじゃないと思う」
ルースはアタシをジッと見る。
ルディ
「いろんな、愛の形があっていいと思う。友情愛とか、家族愛とかさ」
ルース
「友情愛はともかく、家族愛は、まず恋愛しなきゃ家族ができないんじゃないですか?」
ルディ
「そうかなぁ? 昔のお見合い制度とかだとさ、別にそこまで好きでもない相手と結婚するとか、普通だったみたいだし…?」
ルース
「…まぁ、そう言われれば、そうですね。でもせめて、一緒にいたいかどうかは、結婚する上で必要だと思います」
ルディ
「じゃあ、いつかさ。ルースが一緒にいたいって思える相手が現れるんじゃないか? きっと、その時、ルースは人を愛したくなるんだよ!」
ルース
「そういうものですかね」
ルディ
「そうだって!」
アタシは言う。
ルディ
「恋愛関係じゃなければ、ルースだって人を愛せる。誰かのことだって、救えるさ」
ルースは一瞬驚いた顔をした。
そしてクスクスと笑い出す。
ルース
「ふふ…ルディに元気付けられる日が来るなんて、思いもしませんでしたよ」
ルースは穏やかな笑顔で言った。
ルース
「ありがとうございます。ルディ」
ルディ
「!」
ルースから、ありがとうと言われて、少し照れる。
ルディ
「いや…別に、大したことは言ってないよ…ルースが楽になれたなら、よかったけど…」
ルース
「頭の片隅にでも、覚えておきます」
そうして、ボートで過ごす時間が過ぎていった。
夕方。
ボートを返したアタシたちは、海辺を歩く。
海岸には、多くのカップルがいた。
彼らの手には赤く輝く恋花があった。
ルース
「そうだ、花流しのイベント。忘れていました」
ルディ
「夕暮れ時の海に流すんだっけな」
ルースは、懐から、恋花を取り出した。
ルディ
「え? ルース?」
ルース
「ルディ。昼間に元気付けてくれたお返しです。花流し。やりませんか?」
ルディ
「え!?」
驚くアタシは、あっけにとられる。
まさか、ルースから切り出すなんて。
アタシは…
A-a-a、「うん。花流し、やりたい」
A-a-b、「ううん。今はやめとく」