無音の雨
ルディ
「助けて! ルース!!」

言った直後だった。
頬に冷たい雨粒が触れたかと思うと、世界から音が消えた。
無音に晒されて、体の並行感覚を失う。それはリュシーも同じようだった。
リュシーの拘束から逃れたアタシの腕を、ルースが引き寄せる。
そして、ルースはリュシーの顔面にパンチをお見舞いした。
雨は止み、音が戻った。
リュシー
「がはっ!」
よろけるリュシー。
ルースはアタシの肩を抱いて言い放つ。
ルース
「もう一度、無音の雨に降られたくなかったら、大人しく引き下がってください」
リュシー
「っ!」
リュシーは、相手が悪いと判断したのか、路地裏に逃げていった。
ルース
「大丈夫ですか?」
珍しく、アタシの顔を覗き込んで心配するルース。
ちょっ!?
顔近くね!?
ルディ
「だ、大丈夫…」
ルース
「ならよかった」
ルースはサッとアタシから離れた。
ギルバートが言う。
ギルバート
「ルディちゃんに怪我がなくてよかった」
ルース
「本当ですよ。荷物持ちが荷物になっては堪りません」
ルディ
「そっちかよ」
ギルバート
「しかし、盗賊人魚が街をうろついているのは、海の神として見過ごせないな。すまない、ルース君、ルディちゃん。私は警察に通報しに行ってくる。君たちは襲われないように、大通りを歩くようにしなさい」
ルース
「分かりました。お願いします」
ギルバート
「すまないね、せっかくの休暇だったのに」
ルース
「それはギルバート様の方でしょうに。僕たちは僕たちで、休暇を楽しみます」
ギルバート
「そうしてくれ。では、良い休暇を!」
ギルバートは去っていった。
残されたアタシとルース。
波の音が静かに響く。
ルース
「さて、どうしましょうね」
ルディ
「大通りで観光するんじゃないのか?」
ルース
「観光もいいですが、そろそろお昼時。食事でもしませんか?」
ルディ
「食事! いいな! 美味いもん食いたい!」
ルース
「あまり高いお店には入れませんよ?」
アタシたちは街の大通りへと歩き出した
大通りには沢山の飲食店と土産物店が連なっていた。
ルディ
「うわー! どこにしよっかな! あのテラス席もいいな! 地元限定のハンバーガー屋もうまそ〜!」
ルース
「脂っこくなくて、量が少なくて、味つけの濃くない料理を出してくれる店を探してください」
ルディ
「ルース…お前、そんなんだから、痩せすぎなんだぞ?」
ルース
「痩せすぎて困ったことは一度もありません」
そうこう言ってると、一つの海鮮屋がルースの目に留まった。
ルース
「ここにしません? 値段もリーズナブルですし」
ルディ
「海鮮! うまそー! しかも水槽で魚泳いでるじゃん! これ食えるの!? すげー!」
ルース
「子供みたいにはしゃがないでください。入りますよ」