海辺の男
アタシたちは、海岸までやってきた。
爽やかな塩辛い風の吹く海辺。
そこに1人の男が立っていた。
ルース
「お待たせしました、ギルバート様」
声を掛けるルース。
ギルバートと呼ばれた人物はこちらを向いて微笑む。

ギルバート
「久しぶりだな、ルース君」
ルース
「お久しぶりです」
ルースは薄く微笑む。
気付いたようにギルバートは言う。
ギルバート
「おや? そちらのお嬢さんは、お友達かな?」
ルース
「あぁ、紹介します。彼女はルディ。よく屋敷に悪さをしにくる小悪魔です。友達でもないんですが、今回は僕の荷物持ちとして同行させてます」
ギルバートはアタシに愛想良く微笑む。
ギルバート
「海の神のギルバートだ。よろしく」
ルディ
「海の神!!?」
アタシはつい大声を上げてしまった。
ルディ
「海の神って!!! この、アルシデの海を維持してる人魚の魔法使いのことだろ!? そんなすごいやつが、ルースの知り合い!!?」
ルース
「声が大きいですよ。一応僕の主人は、アルシデに雨を降らせる雨の神なんですから、その上位互換の海の神と繋がりがあってもおかしくないでしょう」
そうなのか…?
しかし、なるほどな…
相手が、神レベルの魔法使いじゃあ、友達って言い方が馴れ馴れしいのも頷ける。
ギルバート
「私が海の神だからといって、あまり緊張しないでくれ。今日は私も休みをもらっているから、今は人魚でもない…「人間の果実」を食べた、ただのおじさんだ」
「人間の果実」とは、亜人が食べると人間になれる果物のこと。
他にも、人魚になれる「人魚の果実」、有翼人になれる「天使の果実」などがある。
ルース
「ただのおじさんではないでしょうに」
クスクスと笑うルース。
ギルバートは気付いたように言う。
ギルバート
「そういえば、君たち。花流しに使う恋花を持っているんだな」
ルース
「あぁ、これは、ルディが勝手に買ったものでして…」
ギルバート
「実は私も持っているんだ」
ルース
「えぇ…?」
ギルバートは懐から、白い恋花を取り出した。
ギルバート
「せっかくのイベントだ。私も、形だけでも参加してみたくてな」
ルース
「そうですか。あ、そうだ。ギルバート様。どうせだったら、色が変わる所だけ見るために、僕のと交換しませんか?」
ギルバート
「ふふ。ルース君は相変わらず恋愛には興味が無いみたいだな」
ルース
「まったく無いですね」
ロマンのかけらも無いルース。
でも、、、
ルディ
「色が変わる所は、アタシも見てみたいなぁ」
ギルバート
「そうか? じゃあ、私とルディさんとで、交換して、夕暮れ時に海にも流してしまおうか?」
ルディ
「なっ! 流すとこまでやるのか!? それはなんか、恥ずかしいような…」
ギルバートはクスクスと笑う。
ギルバート
「冗談だ。こんなおじさんとよりも、歳の近い子同士の方がいいだろう」
ルディ
「あー、それだと逆に選択肢が無いというか…」
チラリとルースを見れば、顔に影を落として、嫌悪感丸出しの表情でアタシを見ていた。
そんなに嫌か。
ギルバート
「じゃあ、花流しのイベントに参加しつつ、浅瀬の階の街を案内しよう。この辺り一帯は観光地だから、退屈しないぞ。昼食は私の奢りだ」
ルース
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
ルディ
「おじさん、金持ちなんだな!」
ルースが私を咎める。
ルース
「ギルバート様と言え」
ギルバート
「ははは。いいよ、ルース君。じゃあ私も、ルディさんのことは「ルディちゃん」と呼ばせてもらおう」
ルディちゃん…
あまり聞き慣れないが、ギルバートとの距離は少し縮まった気になる。
ルディ
「ちゃん付けなんて、初めてかも」
ギルバート
「そうか。若くて可愛い女の子には、ちゃん付けしたくなるんだが…って、そういう所がおじさんなんだな」
自虐しているのだろうが、どこか身の程をわきまえているような言い方で…なんだろう。
大人の男性って感じ。
アタシのこと、可愛いって言ってくれるし。
ルディ
「おじさん、いい人だな」
ギルバート
「いい人、か。悪い人ほど、いい人に見えたりしてな。ルディちゃんは可愛いから、変な男には気をつけるんだよ」
ルディ
「!」
アタシのことを気遣ってくれた!?
そんなの人生で初めてだ。
素直に嬉しい。
なんでこんないい人が、鬼畜のルースと知り合いなんだ…
アタシたちは街へ歩き出そうとした。
その時だ。
1人の女が私たちの前に立ちはだかった。