「花流し」
1人の花屋と思える男が、アタシたちの前に躍り出てきた。
いい終わるか終わらないか。
ルースは花屋を、鬼のような形相で睨む。
ルース
「カップルじゃありません」
花屋
「あぁ、失礼! でもお二人、ここらじゃ見ない顔だね! 別の階層から来たのかい?」
ルース
「えぇ、まぁ」
花屋
「じゃあ、ラッキーだよ!」
ルース
「?」
花屋
「今、浅瀬の階は春のイベントの真っ最中! その名も「花流し」! ご存知かい?」
ルース
「…いえ」
花屋はペラペラと説明する。
花屋
「春の浅瀬の階では「花流し」というイベントがあってね。この「恋花(れんか)」という花をお互いが交換すると! あら不思議! 白い恋花が綺麗で情熱的に輝く赤い花に変わるのさ! その赤い恋花を夕暮れ時の海に流すと、2人の恋は成就するっていう言い伝え付き! 素敵なイベントだと思わない?」
ルース
「いやまったく」
血も涙もない返事を返すルース。
アタシはちょっと素敵だと思ったのに。
ルース
「すみません。急いでいるんで、押し売りだったらお断りしたいのですが」
花屋
「えぇ…、、、えーっと。そちらのお嬢さんはどうです? 浅瀬の階に来た記念にもなりますよ?」
アタシは花屋の持つ白い恋花をもう一回見た。
清純そうな可愛い花。
せっかく浅瀬の階にも来たんだし…
ルディ
「じゃあ、2本ください!」
花屋
「まいどあり! 2000ベートだよ」
アタシは財布から1000ベート紙幣を2枚出して、花屋に渡す。
瑞々しい二本の白い恋花を受け取った。
花屋
「イベントを楽しんでくださいね〜」
花屋の言葉を背に、ルースは言う。
ルース
「何、無駄遣いしてるんですか。交換する相手なんていないでしょうに。しかも二本も買って…」
ルディ
「一本はルースの分だよ」
ルース
「はあ?」
ルディ
「折角、浅瀬の階に来たんだから、イベントも楽しんじゃおうよ! な?」
アタシはルースに恋花を一本手渡そうとする。
ルースは眉間にシワを寄せてアタシを睨んだ。
数秒後。
彼は恋花を受け取った。
ルディ
「お! 意外! 受け取るんだ!」
ルース
「お金がもったいないですからね。持っておくだけです」